『十牛図〜自己の現象学』(上田閑照)を読んで3

私が十牛図で好きなのは、第六図「騎牛帰家」である。第四図であれほど緊張感を持って引きあった手綱は手放され、牛と人は一体になっている。人は牛に歩みを任せ、道をそれることをいささかも恐れていない。牛を信じ、委ねきっている。そしてその状態を賛美…

『十牛図〜自己の現象学』(上田閑照)を読んで2

私が「今ここ」の性質をよく表現しているなと感じるのは、第四図で牛と人との間の綱がピンと張りつめた緊張感に満ちた場面である。人は決して牛を離すまいと、必死で綱を引っ張っている。人が牛を御そうとしているわけだが、しかし見方を変えると逆に牛に引…

新型コロナウィルス危機と私5〜批判する心

この頃新型コロナウィルスの問題をめぐって、自分がいつもよりも批判的になっているなと感じている。国・行政の対策や識者の意見に対し、批判したい気持ちが起こる時がある。インターネットを見ていても、厳しい批判・非難をしている人が多数おられるのでこ…

新型コロナウィルス危機と私4

外出自粛が続く中、健康を保つため毎日のようにジョギングをしたり、公園を散歩したりしている。もうかれこれ2ヶ月あまりも続けているのだが、特に最近自然の放つ一瞬の美しさに惹きこまれる体験が増えている。風にそよぐ花の白さに、またふと見上げた空の…

新型コロナウィルス危機と私3

この新型コロナウィルスの広がりのなかで、今阪神淡路大震災のことが思い出されている。なぜこのタイミングでと自問してみたのだが、それは恐らくあの震災で起きたことが、このウィルスによって起こっていることと似ている部分があり、今の私(私たち?)に…

新型コロナウィルス危機と私2

(3月23日執筆)この一週間ほどの間に新型コロナウィルスがイタリア以外にも、イラン、スペイン、アメリカ、フランスなどに広まってきている。患者数の急増に伴って医療のキャパシティを超えてしまい、適切な治療を受けられない人も出てきていると報じら…

新型コロナウィルス危機と私

今新型コロナウィルスが世界で猛威を振るっている。ヨーロッパで感染者、死者ともに急増し、外出や移動の制限や国境封鎖、集会の禁止などの措置が取られている。まさに一ヶ月前には世界の誰もが想像できなかったような状況が起きている。 中でもイタリアでは…

新型コロナウィルスの生み出すもの〜国という単位の限界

緊急事態宣言の中、家にいる時間を使ってこの新型コロナウィルスが、私に、私たちに、そして世界に何をもたらすかをみて、感じて、考えようとしている。その影響は思ったよりも多くの分野に及んでいて、これからの私の生き方にも関わっているように思えるか…

社会的接触と身体2

今新型コロナウィルスの蔓延の中で「社会的距離」を取ることが必要とされているが、このことは私たちの身体や人間関係にも影響を与えるように思う。メルロ=ポンティは「知覚の現象学」において知覚や身体について論じたが、その中で彼は「関係は身体から相互…

社会的接触と身体1

緊急事態宣言で家にいることが多いが、気分転換と運動不足解消のために毎日昼食後一時間ほど外に出てジョギングをしている。同じように過ごしている人が多いのだろう、近くの公園は結構な人出である。それで3〜5mの距離を保つために、人を避けて走ることを…

ながれと形3〜「今ここの実在の流れ」

これまで「動的平衡」の考え方と『流れとかたち』から「私」について考えてきた。私は身体という形を持っている。この身体は分子の流れの動的平衡によって生まれる。そして形は「そこに流れるものをより良く流すデザインへと変化する」。だから動的平衡は何…

ながれと形2〜『流れとかたち』

「流れと形」についてもう一つ示唆を与えてくれると思うのが、エイドリアン・ベジャンとJ・ペター・ゼインが『流れとかたち』という本の中で提唱した「コンストラクタル法則」である。それは一言で言うと「すべては、より良く流れるかたちに進化する」と言う…

ながれと形1〜動的平衡

今私は「流れと形」について考えている。このブログでは、私が生きていくベースとしての「今ここ」について繰り返し書いているが、私にはこの「今ここ」が流れとして感じられている。だから「流れと形」を理解することが「今ここ」や「生きる」ということを…

『十牛図〜自己の現象学』(上田閑照)を読んで1

これまで書いてきたように「今ここに起きてくる実在」の流れにこそ、私が生きるベースを求める上での鍵があると感じられている。ところで映画「シンドラーのリスト」でも感じたことだが、私には様々な文学や映画において「今ここ」が描かれている作品がたく…

『すばらしい新世界』

以前から『すばらしい新世界』を読みたいと思っていた。それは『ホモ・デウス』などを書いたユヴァル・ノア・ハラリが、未来社会を考えるヒントになる本として紹介していたからである。そして実際に読んでみて、私はこの本には「今ここ」とは何かについての…

シンドラーのリスト

空き時間を利用して録画してあったスピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』を見た。シンドラーはナチスドイツの虐殺からユダヤ人を救った人として有名だが、映画では戦争を利用して成り上がる野心家として描かれている。これは以前にも見たことがあったが…

物語と「今ここ」

これまで書いてきたように物語は可塑的であり、悪意のある共同体によって悪用される危険を持つ。『ホモデウス』の中でハラリが述べたように、自己も含めた世界は全てフィクション(虚構)の物語であると捉える人もいる。それではこうした物語は全て捨て去る…

服従の心理

前述のように共同体の持つ世界や物語は可塑的である。それは絶対でもないし、過ちを含み、変化していくものでもある。一見こうした世界は物理的な現実に見えるが、それは暴力や罰、配分、規範などによって物語を補完して実体のあるものに見せているだけで、…

身体の知恵

前回、これから私が何のために、何を大切にして、どのように生きていくのかのベース、つまり「私を生きる知」を学び問うためには、私が「私を生きる専門家」として、現実状況に向き合い、それを「省察」すること、つまり体験から学んで行くことが必要である…

体験から学ぶ「私を生きる知恵」

前に書いたように今の私には、これから何のために、何を大切にして、どのように生きていくのかのベース、つまり「私を生きる知」が必要になってきている。しかしこうした知は多分客観的、科学的な方法では得られないだろう。それは人間一般ではなく、この「…

なぜ今ここについて学び問うか1〜生きるベースについて

60歳を目前にして、今改めて自分が生きていくための指針・ベースについて学び問いたい気持ちが強くなっている。年齢的にも、身体的にも、死を意識せざるを得ない状況の中で、これから私が何のために、何を大切にして、どのように生きていくのかのベースを…

スピリチュアルケアを考える

今日は日曜クラブへのお誘いです。スピリチュアルケアのガイド―いのちを見まもる支援への実践作者: 窪寺俊之.井上ウィマラ出版社/メーカー: 青海社発売日: 2009/04/06メディア: 単行本 クリック: 2回この商品を含むブログ (1件) を見る―――――――――――――――――――――…

今エリクソンの「老年期」を読んでいます。

老年期―生き生きしたかかわりあい作者: エリク・H.エリクソン,ヘレン・Q.キヴニック,ジョーン・M.エリクソン,Erik H. Erikson,Helen Q. Kivnick,Joan M. Erikson,朝長正徳,朝長梨枝子出版社/メーカー: みすず書房発売日: 1997/01/15メディア: 単行本 クリッ…

いまエリクソンの青年ルターを読んでいます。

青年ルター〈1〉作者: E.H.エリクソン,Erik H. Erikson,西平直出版社/メーカー: みすず書房発売日: 2002/08メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見るエリクソンの考え方の重要なものの1つに、個人がその深い内面的葛藤を克服するための闘いが、そ…

昨日、日曜クラブ6月「リフレクション〜このごろの私」を開催しました。

昔の学びの仲間が3年ぶりぐらいに来てくださったので、暖かい気持ちで始めることができました。今回は☆まだ言葉にならない感じや想いに目を向ける ☆このごろの私を見つめてみる ☆明日に向けていま自分の中から生まれてくるもの(気づき、見通し、決断・・)…

先週の土曜日に、大阪駅から高速バスに乗って兵庫県中部にある看護学校でリフレクション研修をしてきました。

学ぶ方は学生さんではなく、学生が病院に実習に行く際、指導する近隣病院の実習指導者の方々です。この看護学校は三つの市が共同して設立した学校で、それだけに卒業生は近隣の公立病院にそのまま就職されます。そのせいもあって実習生の受けいれと教育にも…

先日ある公立病院で新任のマネジメントの方向けの研修をしてきました。これももう5年くらいになります。

マネジメントで一番難しいのはやはり人を動かす所だろうと感じます。特に病院ではチーム医療の問題や、リスクマネジメントの問題等、指示・命令では人を動かしにくい課題が多くあります。こうした時にメンバーと共に一緒に考え、一緒に決めることができれば…

いま岸本英夫さんの『死を見つめる心』を読んでいます。

死を見つめる心 (講談社文庫)作者: 岸本英夫出版社/メーカー: 講談社発売日: 1973/03/15メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 12回この商品を含むブログ (5件) を見るこれは随分前の本ですが、宗教学者だった岸本さんがガンにかかり10年間の闘病の中で、死と向…

23日〜24日の一泊二日で、第3回ミニラボを開催しました。

若い小学校の先生やNPOの方、幼稚園の先生等、人に関わる仕事をしている方々とともに学びを進めました。グループになってからは3つの実習を行い、丁寧にふりかえりをして、自分の関わり方の特徴に気づき、より自分と人とを大切にする新たなかかわりを探って…

17日の日曜日は6月の「日曜クラブ」でした。これは体験と学びの会の活動として行っているもので、月1回日曜日に開催している学び場です。

http://www.maholo-ba.jp今回は、ベーシックな「聴く実習」をゆっくりと行いました。これはコミュニケーションを以下のルールに沿って行うだけという至ってシンプルな実習です。ルール1. 発言したい人Bは、その前に発言した人Aが真に言わんとすることを、…