昨日は創業経営者が多く集まる秀吉会さんでワークショップを行ってきました。

 簡単なファシリテーションの説明の後、採用基準を決める合意形成ワークを行い、ファシリテーションや自分のグループへの関わり方のくせに目を向けました。

 酒を含む飲食ありの場だったので、大丈夫かなと心配していましたが、みなさんとても真剣に取り組まれ、気づきもあったようです。

 特に最後の質疑応答がすばらしい質問が多かったので少しまとめてみました。逐語ではありませんが、大体の大意は下記の通りです。

Q よくリーダーとファシリテーターを分けた方がよいと言われますが、それはなぜですか?

A リーダーは、話し合いの結果に責任を持っています。従って例えば会議で意見が対立した状況などでも、どちらかに肩入れして自分の意見をいいたくなります。
 しかし、もし権威を持つリーダーが片側の意見を支持すると、もう一方の側は意見を抑えてしまい、自由にモノを言いにくくなりやすいのです。
また自分が意見を熱く主張し出すと、周りの場=グループプロセスの様子はとてもつかみにくくなり、発言を促し、対立する視点を浮き彫りにしていくファシリテーターの機能を果たせなくなってしまうのです。
つまり内容や決定の質という「コンテンツ」とメンバーの参加度、感情、コミュニケーションのあり方などのグループプロセスを分析し、ファシリテートすることは一遍には難しいのです。従って、リーダーとファシリテーターを分けた方がよいのです。

Q それでもリーダーがファシリテーターをする際の注意点は何でしょうか?

A 実際、少人数の会議であったり、リーダーが自分の意見に固執せず、合意形成を求めるタイプであったりした場合には、自分でファシリテーターをしても大丈夫なケースもあります。
 ただ、一番気をつけてほしいのはリーダーのグループへの影響力が、リーダーが思うよりも強烈であることです。そしてその影響はグループが知恵とチカラをあわせていく上で、良い影響も、悪い影響も与えています。
 この時、リーダーがファシリテーターを兼ねると、リーダーがグループやメンバーに与える負の影響力を緩和し、ファシリテートする機能が果たされなくなってしまいます。
 従ってすでにグループのレベルが満足できる状態の時には、リーダーがファシリテーターになって進めてもいいと思います。一方グループが少し病気にかかっているときには、(そしてその原因がリーダーの影響力にある場合には)リーダーはファシリテーターをすることを避けた方がいいでしょう。

Q 長年同じメンバーでやっている組織の場合、もう話し合いの方法などが決まってしまっています。こうした際にファシリテーションは効果があるのでしょうか?

A これは私たちの言葉でいえば、長い間にグループプロセスが固定化(凍結化)された状態と言っていいでしょう。こうした状態ではAさんの次にBさんが発言するとか、意思決定の方法などが暗黙のうちに決まってしまっています。
 こうした固定化(凍結化)されたグループの場合、まず今の状態が知恵とチカラをあわせる上で満足できる現状にあるかどうかを判断する必要があります。
 もし満足できる状態ならそのままにしておくとよいでしょう。しかし、もし満足できない状態になるなら、まず固定化されたグループプロセスを「解凍」し、望ましい状態への「移行」をファシリテートし、よりよい状態で「再凍結」させる必要があります。
 これはグループプロセス・ファシリテーションによって可能になるので、ファシリテーションは効果があると言っていいかと思います。

Q 前の質問にあった「解凍」、「移行」、「再凍結」ですが、組織でこれを実行するのにファシリテーターだけで可能なのですか?

A いいえ。特に外部から呼ばれたファシリテーターの場合、グループプロセスが固定化(凍結化)された状態を解凍しようとすると、メンバーの猛烈な抵抗と反発にさらされ、解任されてしまうでしょう。
 こうした場合、必要なのはリーダーによる圧力です。今のグループの現状に満足でないこと、もっと知恵とチカラをあわせる状態へと移行する必要があることをグループに伝え、(高い業績目標、モラール・対人関係上の目標、危機感の植え付け等はその一つでしょう)
そこに向けて進むようにリーダーシップを発揮する必要があります。
 こうして「今のままではダメ」という意識が生まれ、そこで新たなよりよいコミュニケーション、意思決定のあり方などのグループプロセスを模索する作業が始まると言っていいでしょう。しかし、こうした際、グループプロセスをしっかりと分析でき、知恵とチカラをあわせられるようにファシリテートできる力をもったファシリテーターは心強い存在になります。

Q 少人数の中小企業などで、ファシリテーションは必要なのでしょうか?1対1のコミュニケーションを改善し、社長が社員からヒアリングした方がいいのではないですか?

A いいえ、少なくとも数人のグループがある組織では、ファシリテーションはやはり有効だと思います。
 まず例えば1人の人がコーチングを学びコミュニケーションスキルを改善したとしましょう。そして会議の中で、傾聴を試みたとします。確かにこれは一定の効果はありますが、会議全体で「聴き合う」、「伝え合う」という規範を作ることはできません。
 しかし、ファシリテーションによって自分たちの伝え方、聴き方にメンバーが気づいていくと、「伝え合あおう」「聴き合おう」という規範が生まれてきます。特に集団的意思決定はメンバーの行動変容を強く促す力を持つことはよく知られています。例えば「会議のルール」を決める会議で「互いに聴き合おう」というルールが合意形成されると、これは会議を大きく変える効果を持つのです。

 一般的に確かに個人のレベルを上げることは必要ですが、それを組織成果につなげる(組織学習といってもいいでしょう)ためには、各メンバーの持つ新しい知識、情報を取り入れ可能な形で、柔軟に集団的意思決定が行われる必要があります。つまり、誰もが自由に発言でき、目標に対して良いアイディアが取り入れられるグループになっていないといけないのです。こうしたグループプロセスを築くことこそファシリテーションに他なりません。