体験学習法の基礎を築いたデューイ「経験と教育」を読んでの考察です。本文とそこから感じたこと(→)を書いておきます。

経験と教育 (講談社学術文庫)

経験と教育 (講談社学術文庫)

・過去の業績と現在の問題との間にある<経験の内部>に実際に存在する関連性を発見する=過去を知ることが、どのようにして未来を効果的に取り扱う点で、有力な道具に転換

→Tグループで過去のことが話されるが、その場合でも、現在の問題との間にある<経験の内部>に実際に存在する関連性を発見できれば意味あることになる

・「経験の重要性を強調しただけでは十分ではない」=もたれる経験の質にかかる
?それが快適か、不快か
?経験がその後の経験に、どのように影響を及ぼすか
=その経験が未来により望ましい経験をもたらすことができるように促す。こうした質的経験を整えること=教育者に課せられた仕事
@あらゆる経験は、願望・意志とは無関係に、引き続き起こってくるさらなる経験の中に生きる
@経験に根ざした教育の中心的課題は、継続して起こる経験の中で、実り豊かに創造的に生きるような種類の現在の経験を選択することにかかっている=「経験の連続性の原理」

→体験学習におけるトレーナーの介入の原理 
 例えばTグループで、今ここに体験にすべてスポットを当てるのではなく、その経験が未来により望ましい経験をもたらすことができるような質の経験を拾い上げスポットをあてる

経験の連続性=「以前の経験から何かを受け取り、その後にやってくる経験の質をなんらかの仕方で修正する」という両方の経験すべてを意味する

?セッションの中で変化が見えなくても、「後にやってくる経験の質をなんらかの仕方で修正する」可能性をもたらす介入がなされる時、後の変化を準備する可能性大

<経験の識別の基準の結論>ある特殊な方向での成長が、それだけで他の筋道での発達のための経路を開くような態度・習慣に対してどのような影響を与えるのか

・グループセッションで一遍に2つの事柄が起こっているとき=どちらに焦点を当てるかの基準として用いられる可能性
・またグループが発達して、「ここに焦点をあてて、食い下がる」ポイントを見出す際にも重要か
・外部からの押しつけをせず、外部の人間が介入する方法
?年少者のなかにどのような態度と習慣的性向が創り出されるか見定めること
?どのような態度が連続的な成長にとって実際に助けになるか判断する
?未成熟者個人を個人として共感する能力を持つ
=この共感力が、学習している人々の精神の中で実際に進行しているものについてのアイディアを教育者に与えてくれる

・連続性の観点からの介入におけるトレーナーの態度

・教育者は価値ある経験の形成に寄与するに違いないすべてのものが引き出されるようにと存在している環境をどのように利用すべきであるのかを知る必要。

・Tグループが持つ構造(部屋から出ない、一定時間で終わる、ふりかえる、過去の経験などにスポットが当たる場合のトレーナーの介入)=上記のための環境設定
・トレーナーの介入(=環境)の根拠

外部からの統制を押し付けたり、個人の自由を制限しないではじめて、客観的要因が重要性を持ってくる
@経験というものは、経験しつつある個人の内部で進行しているものに従属させられてこそはじめて真の経験である

・特に体験学習における「ふりかえり」などにおいて、トレーナーが自分の気づいてほしい事柄に引っ張る場合があるが、そのメンバーにとって、「経験として気づいていること」を取り上げないと、体験学習のサイクルは真には働かない。
=ふりかえりの中で、場に出された内容を拾った方が安全か?

・連続性と相互作用=経験の縦と横の側面
@個人が1つの状況からほかの状況へ移り変わるさいに、その個人の世界=環境は拡張したり、収縮したりする。その個人は、別の世界に生きている自分を見出すのではなく、1つの同じ世界でこれまでと異なった部分、あるいは側面で生きる自分を見出す。
?十全な形で統合された人格=連続的経験が相互に統合されているときのみ存在する
?十全な形で統合された人格=相互に関連する対象物の世界が構成されたときのみ存在

・講座設計(プログラム設計)の際に、なるべく多くの体験学習を入れ込み、多くの経験をさせればよいのではない。その相互の関係をふりかえり相互に統合するための時間をとる必要がある!
・学習者の内的条件(欲求、目的)と教育者の環境設定の能力が合致=個人の能力や要求を理解する責任が伴う。

・プログラム設計がフレキシブルである必要。現在の学習者の内的条件にふさわしいプログラムを組む必要。
・介入の根拠。学習者の内的条件にあわせた介入方法の変化の必要。

@学校教育は「自己の経験から学ぶ」という貴重な才能を潰している可能性
?自分自身の魂(常識と判断力)
?事物に関連する価値に対して批評する能力
?学んだことを適用してみようとする能力
@教育的計画における準備の真の意味
?自分の経験から、その経験の中にある自分のためになるすべてを獲得すること
=我々はそれぞれの時点において、それぞれの現在の経験の十分な意味を引き出すことで、未来においても同じことをするための準備をしている

・「ふりかえり」において、経験はしたが十分に内省されていないデータに焦点をあて、仮説化することを支援するのは意味がある?

@個人の行動の統制は、その個人が含まれ分担している協同的で相互作用的な役割をもっている全体的状況によって効果的なものにされている」
=誰か一人の個人に支配されていると感じていない
→自由を侵害しないで、個人を社会的に統制するという一般的原理を説明する
→教育者=すべての個人が貢献する機会をもち、個人が活動そのものの中で必要とされる統制の主要な運び手となるような組織づくり=そうした活動を選び取ることができる教材についての知識に責任

・セッションにおける出だしでメンバーがトレーナーに頼っても、それを引き受けない
・シェアード・リーダーシップ=例え強いリーダーシップを発揮しうる能力を持っていても、その発揮を見送り、「空きスペース」を作ってやることでメンバーが貢献する機会を得る=自らを統制する全体的状況に参与することになる

@統制上の失敗=前もっての活動計画が十分思慮深く立てられていないことに帰着
?自分が扱う生徒たちに共通する能力、要求の調査
?これら特殊な生徒の能力を発展させ、それらの要求を満足させるような経験からでてくる教材、教育内容を提供するにふさわしい条件を整える必要
?教育計画は、経験する個人の自由が個別的に展開されるにふさわしい柔軟なもの
?個人の能力が持続的に発展する方向をしっかり示すにふさわしいもの

・ただし、シェアード・リーダーシップには、メンバーの能力・意欲の成熟必要。リーダーの環境設定能力(介入能力も含め)必要。

@経験の発達が相互作用から生じる原理=教育が本質的に社会過程であることを意味
=生徒が共同体集団の形成にかかわる程度に応じて実現
@教師=共同体集団の中で最も成熟している=集団の相互作用と相互伝達において教師ならではの格別の責任

・教育が本質的に社会過程(から生じる経験から)であるとすると、人間関係、相互作用の促進というリーダーの役割は、Tグループのトレーナーという対人関係訓練だけに求められるものではなく、学校から組織に至るあらゆる教育がかかわる分野で必要とされる。

@永遠に重要な唯一の自由=知性の自由=価値のある目的のために、観察や判断がなされる自由
外面的自由はそれ自体目的ではない=共同活動を破壊することも
@この種の自由は(制限から解放される自由)、力(目的を形成する力、賢明に判断する力、願望を実践したことからの結果によって願望を評価する力、選定された目的を実施する手段を選択し秩序あるものにする力)への手段としてのみ価値

・学校において努力の価値がいわれるが、それは「外部から与えられた目的に対しての努力」という意味ではなく、共同性の学びの中での経験から、目的を形成し、そのための手段を考え、実行する努力を指している。

・思考すること=一段と総合的で一貫した活動計画が形成されるまで、最初の衝動を即時的に表明することを停止させる
?客観的条件を観察すること?過去に起こったことを思い起こすこと
→思考することは観察と記憶の結合を通じて衝動の内的抑制に効果を挙げる=反省・自制

・特にトレーナーとして衝動から介入する事の危険性。常に上記の内的抑制の下で介入することが求められる。
・リーダーにも同じ。これは他者の体験学習のサイクルを支援する人には厳に求められることか。

プラトン 奴隷=他人の目的を実行させられている人
@自分自身の盲目的な欲望のとりこに=また奴隷
@伝統的教育 学業における目標形成過程に生徒が積極的に協力できない
進歩主義的学校においても学習過程で学習者の活動を導くような目的を形成するさいに、学習者が参加することの重要性が強調されて良い

・学習者を奴隷にしないことを肝に銘じる。
・大きなねらいは、講座設計で当然持つが、その中で個別具体的な目標は、学習者の過去の経験や問題意識から作られ、体験学習の中に持ち込まれる

@目的=目論まれたもの=終局への見通し=衝動にはたらきかけることから生じる結果を見通すことが含意=結果の見通しには知性の作用が含まれる
?周囲の状況の観察
?過去の似たような状況で起こったことについての知識、(回想によって得られた知識、広い知識をもった人からの情報・忠告・警告)
?得られた知識が何を意味するのかを理解するため、観察されたものと、回想されたものとを結合する判断力

・トレーナーにとっても、メンバーと関わりたいという衝動は、介入の基本。しかし、上記の段階をへて、初めて介入すべきかどうかが判断される。
・体験学習のサイクルの意味 特に指摘、分析過程では、過去の経験や他者からの知識などは生かされうる

・教師の仕事=衝動や欲望が生じるや、それを好機に利用する点を見定めることである。
@自由は目的が発展するさいに、知的な観察と判断とがはたらいているところに存在するので、生徒が知性を実地にはたらかせることができるよう、教師は指導で自由を助長する
@生徒への示唆=どこからか与えられる必要。多大な経験と広範な視野を持つ人からの示唆は、有効である。
・常に衝動や欲望をよいものとしてとらえ、経験をふりかえる場を持ち、知的な観察と判断を働かせることを促す。そして指摘、分析過程では自らの持つ経験・知識も提供(教えて)してよい。=自由を促すこと
・これは体験学習のサイクルを支えるトレーナー、教師、上司にとって重要!

@教師の職権を利用して、生徒の目的というより教師の目的に強制して追い込むことは可能。<このような危険をどのように避けるか>
?教師は自分が教えている生徒の能力、要求、過去の経験について、知的に気づいている必要
?集団の成員である生徒が役割を分担し、全体への貢献がなされ組織だてられていくような示唆によって、その示唆を教育計画や企画までに発展させようとすること
=教育というのは協同事業であって、指図ではない
@教師による示唆は鋳物になるようにするための鋳型ではなく、学習過程にひたすら従事してきたすべての経験からの貢献を通じて、計画にまで展開されるべき出発点
=展開は互恵的なギブアンドテイクを通じて生起するもの。教師は受け取りもするし、与えもすることにためらってはならない

・ただし最後の仮説化、一般化(経験の最終的な受け取り方)を教師、上司が行うと、鋳型になってしまう。計画自身は本人が立てる必要。

@新教育は際立って対照的
?新教育の最初の段階 経験の内部に学習のための教材を見つけ出すこと
?次の段階 経験されたものをより豊かに一段と組織化された形態へと進展させること

・特に体験学習サイクルの仮説化、一般化のプロセスで、統合された組織化が進む方向での仮説化と、まだバラバラの仮説化がありえるように思える。特に後者の場合、どのように前者に導いていくような介入が可能か?

教育者は2つの事柄を同じように調べ確かめる必要
?この問題は、現時点で持たれている経験の条件から起こり、それは生徒の能力の範囲内にあるか
?問題は、学習者の内面で新しい考え方が形成され産出されるために、積極的な探求を生じさせるか→こうして獲得された新しい事実や考え方はやがて新しい問題が提示されてくる更なる経験の基礎になる=経験が歴史的にらせん状に連続

・セッションで、課題として取り上げるべきかどうか迷った時。メンバーに課題として取り上げたいかを聞いてみるという選択肢がある。

@どのような経験も、
?より多くの事実にかかわる知識やより多くの理念を受け入れたいという傾向
?事実や理想をより適切に、さらに秩序立てられた配置へと整理していく傾向
を両方持たないようでは教育的であるとはいえない
@しかし、知的組織化はそれ自体が目的ではなく、それによって社会関係、独特な人間的なつながりや結合力が理解され、一段と知的に秩序づけられる手段を意味する
・体験学習の2つのフェーズを意識すると良い。その人は、より多くの理念を受け入れている状態か、組織化している状態か?介入は変わってくる。
・また経験からの知識の組織化は最終的には対人関係にかかわる形へ方向付けられる?

@科学的方法の特徴=どのような教育計画とも密接に結び付く
?科学における実験的方法には、他の方法よりも、考え方としての理念に対して、少なからず、はるかに多くの重要性が置かれる
例 実験に用いられる理念が仮説であって究極の真理ではない事実
=考え方としての理念が、他のどのような場合よりも科学によって一段と油断なく見守られ検証されるかの理由の根拠。仮説としての理念は継続的に検証必要。
?理念や仮説は、それらが実施されたときに生じる結果によって検証される
=行為の結果は注意深く観察される必要
?実験的方法の中に表示される知性の方法は、理念、活動、観察された結果の軌道を保持することを求める=反省的再調査や総括の問題=経験における識別と記憶の両方が存在
=反省すること=実施されたことを回顧すること=更なる経験を取り扱う知性にとっての資本が蓄積される→この反省こそ経験の知的組織化の精髄、訓練された精神の真髄

・体験―指摘−分析−仮説化の体験学習サイクル=科学的方法の特徴を生かしたもの。この繰り返しの蓄積の中で知的組織化も行われる
→「教えることと学ぶことは経験の再構成の連続的過程である」

@科学的な方法をさまざまな成熟した個々人に適用=教育者に1つの問題
?理念の形式?理念に基づく行動?結果をもたらす条件の観察?将来に使用される事実と理念の組織化

・体験―指摘−分析−仮説化の体験学習サイクルのもう一つの言い換え